とらぶる(2)

 とある日、いつものように他愛のない話をしていたときのこと。ふと、お願いがあると前置きを置いて話を切り出した彼。
「お金を貸していただけませんか?」と。
 最初、自分は戸惑った。そんな親しい仲でもないのになんでだろ?と思っただが…、それでも顔見知りだからと彼に二千円を渡した。
 正直、もしかしたらという思いもあったのだが、次に会った時に二千円は返してもらえた。だが、何度か顔をあわせるているうちにそのやりとりの回数は増えていった。返却の要請に答えられないこともあったり、お金を貸しているのに貸してくれと言われることもあった。
 そして、一年ほど前。彼の姿を見ることはできなくなった。自分が訪れる回数が減った時期と重なったのでよくわからなかったが、少なくとも自分が見ることはなかった。誰からも話は聞かなかったが、彼と親しかった常連さんの態度がおかしいときがあったので、トラブルが絡んでいると自分は推測した。
 その時、自分は彼に二千円を貸していたのだが、たいした金額ではないのでもうあきらめはついている。お金がなくなって平気というのは嘘になるけど、たかだかその程度の金額でどうこうするほどお金に困ってはいない。犬に噛まれた程度のものだ。たけど、自分が喪失したのは二千円だけではなかった。うまく言えないのだが、確実に自分の中の何かがなくなっていた。
 今思うと、たかだかゲームをする為に常連からお金を借りる。かなり滑稽で愉快な話である。もしかしたら、彼は常連という立場を利用して借金を繰り返していたのかも知れない。それが本当だとしても、自分には怒りという感情は最初からなかった。いつかはこうなるだろうと薄々感づいていたからだと思う。自分の人物鑑定もまんざらじゃないと思う今日この頃だ(笑)

 ただ、胸の内には空しい風が吹くばかり…。風の色は灰か青か?